2021年6月初頭において、
昨年2月から蔓延した全世界的な新型コロナ感染の状況は収まる気配を見せていません。
1年延期になった東京オリンピック・パラリンピックの開催も危ぶまれています。
2020年の不動産市場は、新型コロナ感染拡大の影響を受ける結果となりました。
9月に発表された都道府県地価調査ではオフィスや商業施設等を中心に地価が下落、
投資用不動産の着工件数は減少したものの、
東京を中心に首都圏のマンションは価格が下がることなく推移しています。
国土交通省が発表した2020年11月時点での「建築着工統計調査報告」によると、
2020年度の投資用不動産の1~11月の着工件数は全国で282,330戸となり前年に比べ10.3%減少しています。
「2021年以降の不動産市況はどうなるのだろうか?」
と気にされる方も多いことでしょう。
不動産投資市場は
景気や需給、不動産市場の状況等と並んで「投資家の心理」が大きく影響します。
金利や融資によっても大きく変化することでしょう。
世界的にワクチンの供給が早いところは徐々に日常の生活を取り戻しつつあるようですが、
我が国は先進国の中では際立って対策が遅れています。
しかし、徐々に新型コロナ収束の希望が見えてきた中、
東京の需要が高いままであることを認知した投資家が、
不動産投資に対し積極的な姿勢を回復するのではないかと言われております。
新型コロナ感染拡大の影響が大きく見られた2020年の不動産業界ですが、
地価は下がったものの家賃や融資、金利に大きな影響は見られていません。
日本銀行の貸家業への貸出件数推移は過去5年間で一番多い結果となりました。
東京都の人口は2025年でピークを迎え、緩やかに減少していくと予測されています。
少子高齢化の影響で2025年に東京都では死亡率が出生率を上回るという予測ですが、
区部のピークは2030年とされており、東京の人口はこの先10年程度は伸びる可能性があります。
2021年から不動産投資を始めたい方には大きなチャンスと言えるでしょう。
特に住宅地は不況下でも需要が落ちないという傾向が続いています。
つまりコロナの影響は限定的であると言えます。
新型コロナウイルスの影響で、
不動産投資において大きなマイナスの影響があったかという質問に対して
多くの投資家が引き続き継続して投資を行うのは
将来のことを考えて資産分散をしたいという変わらぬ基本姿勢であり、
老後の私的年金として公的年金の不足を補うことによって安定した収入を得ることができるという思いには根強いものがあるようです。
次に建築・売買など不動産投資に最も重要なポイントになる、
不動産投資ローンの動向について整理したいと思います。
コロナ禍において、不動産関連の融資に限らず、
全業種の事業者・個人事業主が経営難におちいり、金融機関には融資相談が駆け込む状態が続きました。
一定の条件が揃えば、無利子・無担保で借りられる緊急融資もあり、
審査する金融機関は休日返上という状況で多忙を極めていました。
また、金融機関でもリモートワークを取り入れ、
出社している人数が制限されているところも多くありました。
限られた人員を緊急性の高い融資相談に優先的に充当するため、
新規の不動産融資を受け付ける余裕がないというのが実態でした。
そのため多くの投資家には融資審査に時間が掛かるという不満が生じていました。
しかし、2021年に入りその状態も落ち着き始め、
株取引をはじめとして投資熱が上がってきている中、金融機関としても、
高額な不動産投資ローンに関しても積極的に取り組もうとする姿勢が見え始め、
様相は変わりつつあると言われています。
不動産投資についての金融機関の貸出条件は依然厳しいと言われていますが、
金利についてはコロナ前と同様で低金利での融資が続いていることは間違いありません。
一般的には1.0%を挟む交渉となっているようです。
また、コロナ禍で一部の賃貸物件において家賃収入の減少が見られたり、
返済遅延などが起こっていることも事実です。
今後、金融機関は不動産投資ローンに関して間口は広げていきたいと考えているようですが、
貸出条件については今まで通り厳しいと考えた方が良いでしょう。
所有物件の状態や融資対象者の属性、キャッシュフローなど、
確実なシミュレーションを自ら作成して銀行交渉に臨む姿勢が必要と思われます。
①ワンルームマンションの場合
ワンルーム投資は物件価格や表面利回りに目が行きがちですが、
コロナ禍においては今まで以上に管理状態に注目すべきです。
ゴミステーションや階段、エレベーター、郵便受け、宅配ロッカーなどの
共用部が常にきれいになっていることは、そのマンションの付加価値を上げることに繋がるからです。
マンションがしっかりと管理されていれば、入居者も気持ちよく過ごしてくれるはずです。
結果的に長期間入居をしてくれることとなり、入退去時の費用が少なくなります。
そのため、管理をしっかりと任せられるようなワンルームマンションを購入することはメリットに繋がるといえます。
その他にも、ワンルーム投資はさまざまな地域の物件を購入することによってリスクが分散できるという利点もあります。
しかし、ワンルーム投資は入居者が見つからない限り収入は0です。
これまでは、都市部に近い立地の物件であればそのリスクは少なかったのですが、
リモートワークが今以上に広がると人が地方へ移り住んでしまう可能性もあり、
コロナで授業がオンラインになったため、地方の学生は東京に引っ越す必要がなくなった、
入居者の収入の減少により家賃の値下げ要求がされるなどのマイナス影響も出始めています。
物件購入の際は慎重に選ぶように心がけましょう。
購入を検討している物件の近隣に同じような間取りのワンルームマンションが多く、
入居率が低い地域は投資としての成功率は下がるため、避けたほうが無難です。
一棟ものの投資は今後、管理コストが上昇する恐れがあります。
例えば、階段の手すりやエレベーターなど、共用部の清掃を徹底することが今以上に求められます。
入居者に安心して住んでもらうために、月2回だった定期清掃が月4回になるといった事態は
充分投資計画に盛り込む必要が出てきます。
コロナ禍では従来のアパート・マンションよりもメゾネットタイプがおすすめです。
建物自体に共用部がないため、入居者同士の接触は入り口付近に限られるからです。
コロナに対する感染リスクは非常に限られます。
生活のリズムが違えば、すれ違うことも皆無でしょうし、
入居中の騒音トラブル(上階の音は他人ではなく家族が発生する音であり、生活サイクルも一緒なので気になりません)も通常のアパートやマンションと比べると少ないことがメリットです。
テナントやホテルの物件は居住用と比較すると、利回りが高いことがメリットです。
コロナ禍でリモートワークをする会社が増えることで、
オフィスを解約する件数が増えています。
その結果、テナントは空室率が上がり、ホテルは稼働率が下がっていることから、
テナントやホテル投資は避けたほうが良いでしょう。
飲食店などは客足が止まってしまったこと(酒類の提供が禁止されたことで息の根を止められました)により、倒産あるいは閉店を余儀なくされているところが数多く見られます。
店舗などのテナントへの不動産投資は居住用の不動産投資と比較すると、
利回りが高いことがメリットになりますが、
今回のようなコロナ禍では長期の空室が予想されます。
今後、長期の空室に耐え切れなくなりテナントを手放すオーナーが増え、
物件価格自体が下がる可能性もあります。
駅近に立地するなど購入したい物件が出てきたときには金額だけに惑わされず、
アフターコロナの時代でもニーズがある物件を見極め、
かつ手持ち資金を十分に確保してから投資をするようにしましょう。
もう少しマニアックになりますが、
木造のアパートで税法上の耐用年数22年を超えた築古の物件に投資するという方法も注目されています。
2021年からは今まで高額所得者に注目されていた
海外不動産で減価償却費を大きく取れて所得の圧縮に利用されてきた投資方法
(日本と違い耐用年数を超えても建物部分の評価金額が非常に大きかったため)
に規制が入りましたのでご注意ください。
ただし、法人名義での投資には法改正は適用されていないので
今でも有効な節税方法だと言えます。
国内不動産でこの手法を用いる場合は合法的ですが、
購入時の資金調達・建物部分の評価をいかに大きくするか(耐用年数超えの建物は4年間で減価償却可能です)
・購入後の家賃の確実性・耐用年数超えの築古物件だけに
建物の維持管理・数年後の売却予定金額などについて十分見極める必要が有ると思います。
コロナ禍ならではの新たな需要というものも生まれています。
感染予防の観点から、リモートワークを打ち出す企業が2020年に急増しました。
終日家にいる人が増えたため、間取りや設備に対するニーズにも変化が見られます。
インターネット回線はより高速でなおかつ無料で利用できることが最低条件になります。
家庭内で作業スペースが作れる、
幼い子供たちとは別の空間で仕事に集中できる、
オンライン会議などに適したスペースが欲しいなど
より広めな物件の需要が増えることが予想されます。
今後コロナ禍が続くようでしたら、
今までの不動産投資の常識は通用しないと考え、
しっかりと自分の頭脳と見識で一歩先を読んで行動する必要があります。
①ワンルームマンションの場合
・年収500万円前後
基本的に区分所有マンションの1室を購入するのがスタートラインと言えるでしょう。
投資物件の場合は税込み年収の10倍程度までの融資を受けられる可能性があります。
ただし、都市銀行は投資用のワンルームマンションに対する融資にはあまり積極的ではありません。
したがいまして全額自己資金か借入金額を少なめにして、
金利は多少高めでもノンバンクからの借り入れで賄う場合が多いようです。
ただし、区分所有マンションは土地に対する持ち分がほんの少ししかないことから、担保評価が低く、
次に1棟ものを購入しようとする場合などに
銀行側から「信用毀損」として融資が下りないこともあります。
将来的な不動産投資計画を踏まえて行動に出るようにしましょう。
何年か運用し、賃貸経営のイロハを学んだ上で、
上記物件を売却して利益を出し、
1棟ものへステップアップするのであればなんら問題はありません。
・年収1,000万円前後
このクラスになるとようやく都市銀行が目を向けてくれるようになります。
年収の10倍を目安に融資が受けられると自己資金を2割程度入れることにより、
1億円前後の収益物件が選択肢に入ってきます。
中古物件だけではなく
土地から購入しての新築デザイナーズアパートなども視野に入ってくるでしょう。
まだ、相続対策は不要とは言っても、
ご自身に万が一のことがあった場合にローン負担が無く、
残された家族に丸々家賃を残してあげられるよう、
団体信用生命保険(通称団信)には必ず加入することをお勧めします。
中古物件を購入した場合は
減価償却の取り方によって大きく節税ができますので、
その節税分と毎年のキャッシュフロー分を積み立てて、
自己資金を増やしていき、銀行に対して確固たる実績を作った上で2棟目の購入を考えていくようにしましょう。
このようにして徐々に資産を増やしていくことができれば
世の中で大騒ぎしている「年金離れ」とは程遠い、
悠々自適の生活を送ることができるようになるでしょう。
・年収3,000万円前後
このクラスになると一般の方には手を出しにくい2億円以上の物件も視野に入るようになり、
競争相手も減り、購入時の金額交渉(これを指値と言います)もできるようになります。
個人の場合は課税所得が1,800万円を超えると所得税率も40%を超え、
住民税10%、事業税5%と合せて55%が税金となりますので、
必要経費として計上できる減価償却費が大きく取れる(売買金額のうち建物金額の占める割合が高い)投資物件を選ぶなど、所得税等の節税を意識した不動産投資を検討することをお勧めいたします。
また、同じ利回りの物件でも購入金額が大きい方がキャッシュフローも大きくなります。
節税できた金額を合わせて次の投資に回せる自己資金も早く増えますから、
資産形成のスピードもそれに比例してアップしていくことになります。
・さらに高額な年収の方
前項のクラスの方にも手が出ない物件情報が入手できるようになります。
一般に3億円を超えると融資対象になる方は限られた方だけになります。
物件情報もすでに世の中に出回っている「川下物件」ではなく、
銀行や不動産会社からの任意売却物件などの「川上物件」の案内が舞い込んできます。
この段階で市場に流通している金額とは異次元の、
買主にとって有利な金額が、しかも低利の銀行融資がセットされている物件ということになります。
初めのうちは個人名義で購入し、
所得税・住民税で莫大な節税をし、5年超保有した後に売却すれば
土地・建物の譲渡による利益に対する課税は所得税・住民税の合計で約20%という
通常の所得ではありえないほどの低率の納税金額で手元資金を増やすことができるようになります。
ただし、5年以内の譲渡ではその税率は約39%と約2倍の高率になりますので、
早期での売却を考えている場合には法人名義での購入という選択肢も現れます。
また、昨今の税制改正の方向性が個人は最高税率55%への増税、
法人は実効税率が30%を切るように毎年のように税率を下げるというものですから、
所得税・住民税の節税を受けながら法人を設立した上での収益物件購入を同時進行的に行い、
個人に集中している所得の分散を図っていくということが
このクラスの方たちの主流になっていくのではないでしょうか。
それでは最後に今は不動産投資を始めるタイミングなのでしょうか?
結論としては不動産投資こそ、
実はこのコロナ禍に代表される緊急事態に強い投資商品と言えます。
その理由は2つ考えられます。
不動産投資も経済の影響を受けないわけではありませんが、
そのスピードは遅いといわれています。
また今回のコロナ禍では不動産投資(特に居住用物件)はほとんどコロナの影響を受けていません。
経済状態が悪くなっても、すぐに入居者が引っ越すということはありません。
入居者がいれば、毎月収入を得ることができます。
今回のようなコロナ・ショックで、不動産価格が急激に下降することも、
ほとんどなかったというのが現実です。
団信は、投資家に万が一のことがあった際には、
その段階での借入金残高を保険金で全額返済してくれるという
生命保険のような役割を果たしてくれます。
そこで遺された遺族は万が一の時には借入金の返済義務が無く、
投資物件を保有し続けて毎月の家賃を今までと変わらず受け取ることができるのです。
ただし団信は一般的に投資家個人が亡くなった時に効力を発生しますので
法人名義での物件取得の場合は契約ができません。
一部の契約では法人代表者に団信を掛けることができるものも有りますので
契約時の選択肢としてご検討ください。
不動産投資は、今回のような緊急事態でも、毎月安定した収入を得ながら、
かつ、投資家の万が一の保障もカバーしてくれる安定的な投資商品といえます。
もちろん、リスクが全くないわけではありません
(周辺相場と連動しての家賃下落、自殺や殺人などの突発的な事故による風評被害、
地震や火災などによる建物への大規模な損害など)。
不動産投資で成功するためには、様々なリスクを理解し、
その回避策を事前に立てることが重要になります。
執筆:田中会計事務所 所長税理士 田中 美光
“この原稿は2021月9月 株式会社ぎょうせいから出版予定の書籍の原稿の一部を、編集して掲載しています。